
1. 飛騨高山まちの博物館とは
飛騨高山まちの博物館は、岐阜県高山市上一之町に位置し、城下町「高山」の歴史・文化・伝統を身近に体感できる無料の学びの場です。地域住民や観光客に愛されているこの博物館は、2011年(平成23年)4月11日にリニューアルオープンし、豪商・矢嶋家や永田家の歴史ある土蔵を再活用して誕生しました。建物自体が歴史の証人としての価値を持ち、重厚な雰囲気が漂います。
展示は、高山祭の魅力や、伝統的な町家文化、円空仏といった宗教美術など、テーマごとに分かれており、訪れる人は地域の多彩な魅力を段階的に味わうことができます。地元の人々の暮らしや文化がいかに受け継がれ、発展してきたのかを、映像や模型、実物資料を通して実感できる構成になっています。街歩きの前に立ち寄ることで、高山の奥深い物語を知り、その後の散策がより充実したものになるでしょう。
ちなみに、この博物館の元となった矢嶋家は、材木や塩の取引を主な生業とし、江戸時代を通じて「町年寄」として商人町の統治に尽力していました。その存在は、高山の商業や自治において重要な役割を果たしてきたのです。一方で、永田家は屋号を「大坂屋」とし、明治初期には高山随一の広大な田地を持ち、酒造業などを営んでいました。彼らの酒蔵は、高山の中でも指折りの規模と格式を誇り、地域経済を支える存在として大いに栄えていました。これらの歴史を物語る土蔵や展示物を通して、当時の人々の息遣いや、今に続く地域文化の根源に触れられるのも、この博物館の大きな魅力の一つです。

2. 基本情報とアクセス
所在地:岐阜県高山市上一之町75番地
電話番号:0577‑32‑1205
開館時間:展示室 9:00~19:00、庭園 7:00~21:00
休館日:無休(臨時休館あり)
観覧料:無料
アクセス方法は、JR高山駅から徒歩15分または「まちなみバス」で11分。「まちの博物館前」で下車すれば便利です。駐車場も整備されており、自家用車利用なら高山ICから約10分で到着します。

3. 14の展示室で学ぶ高山の歩み
館内は14もの展示室に分かれており、城下町の誕生から民俗・工芸・宗教・祭礼に至るまで多角的に紹主な展示テーマは以下の通りで、どれも高山の歴史や文化を象徴する貴重な内容となっています:
まず、「城下町の形成と豪商文化」では、江戸時代に高山がどのように発展してきたのかを紹介しています。城下町の整備や、商人たちが築き上げたにぎわいの様子、町年寄などが果たした役割など、地域の成り立ちを多面的に学ぶことができます。豪商たちの暮らしぶりや、商業ネットワークの広がりも感じ取ることができるでしょう。
次に、「町家建築と職人による暮らし」では、飛騨の匠による町家の技術や暮らしぶりが紹介されています。特徴的な木組み技法や、生活空間に生かされた細部の工夫など、伝統建築の美しさや職人の誇りを感じさせる展示が並びます。これにより、現在の街並みにも受け継がれている技術と美意識を改めて実感できるはずです。

「高山祭の仕掛けと歴史」の展示では、日本三大美祭のひとつとして知られる高山祭の魅力に迫ります。豪華絢爛な屋台の仕掛けや、祭りの運営を支えた人々の情熱などが、模型や資料を通じて臨場感たっぷりに伝わってきます。地元の人々の誇りとともに、祭りに込められた思いを感じることができるでしょう。

また、「円空仏をはじめとする宗教美術」のコーナーでは、飛騨ゆかりの仏師・円空による円空仏や、地域に根ざした宗教美術の数々が展示されています。素朴で力強い仏像の表情は、見る人の心を静かに打ち、地域の精神文化の深さを物語っています。
「地酒と食文化の発展」では、飛騨の自然の恵みを生かした食文化や、地域に息づく酒造りの歴史が紹介されています。地元の食材や四季折々の味覚に触れ、旅先の味わいがより豊かに感じられる内容です。

さらに、「春慶塗・一位一刀彫など伝統工芸」では、飛騨の職人技の粋を集めた工芸品が並びます。春慶塗の艶やかさや、一位一刀彫の繊細な彫りの美しさは、高山の手仕事文化を象徴しています。これらの作品を通じて、技を磨き続ける職人の思いにも触れることができるでしょう。

所蔵資料は約75,000点に及び、そのうち常時約900点が展示されています。これらの展示は、たとえば高山市政記念館などの施設では見られない、江戸時代以前の歴史的資料や工芸品も豊富に含まれており、他では味わえない高山の歴史の奥行きを体感できます。

展示内容は撮影NGのため、現地に足を運び、自分の目で実際に歴史資料や工芸品をじっくりとご覧いただくのがおすすめです。ガラス越しに並ぶ品々からは、当時の人々の暮らしぶりや、地域の文化を育んできた背景を感じ取ることができ、まるで歴史の一部を旅しているような気持ちにさせてくれます。どうぞ、その場でしか味わえない貴重なひとときをお楽しみください。
4. 中庭と庭園:癒やしの空間

館内には、歴史的建造物に囲まれた芝生広場や、せせらぎが心地よい音を奏でる中庭が整備されています。四季折々の風景を楽しめるガラス灯が並ぶ小径も美しく、日差しや木漏れ日を感じながらゆったりと散策ができます。周辺の歴史的な建物の佇まいと一体となった空間は、どこか懐かしくも新鮮な趣があります。
また、井戸からくみ上げられる清らかな湧水が静かに流れ、庭園内の池や水路を満たしています。周囲には色とりどりの緑が生い茂り、訪れる人々に癒しを与えています。朝や夕方の時間帯には、柔らかな日差しや涼やかな風に包まれ、散策や小休憩を楽しむのにぴったりです。館内では「静かな時間の中で過ごせる」と評判で、都会の喧騒を忘れられる贅沢なひとときを味わうことができます。

さらに、敷地内にはその時期に咲く花々を紹介した「花マップ」が用意されており、季節ごとの花を探しながら散策するのもおすすめです。「花マップ」は館内で無料配布されており、どなたでも気軽に手に取ることができます。手元のマップを頼りに、四季を感じさせる花々を探しながら歩いてみてください。日々の喧騒から離れ、ゆったりとした自然のリズムに心を委ねる時間をぜひお楽しみください。

5. バリアフリー対応と体験学習
館内はスロープや段差の少ない通路、車椅子対応トイレなどバリアフリー対応が充実しており、誰でも安心して利用できます。高齢の方や車椅子利用者、小さなお子様連れの方にもやさしい設計がなされており、快適に過ごすことができます。
さらに、土日祝日を中心にボランティアによる日本語・英語でのガイドサービスが行われており、施設の魅力や歴史を詳しく知ることができます。案内パンフレットは多言語に対応しているほか、映像資料には字幕が付けられているため、聴覚に不安のある方にも安心です。加えて、館内スタッフも気さくに対応してくれるので、より深く高山の歴史や文化を体感することができるでしょう。

6. 観光前におすすめのポイント
初めて高山を訪れる方には、まずこの博物館を訪れて地域の歴史や文化の全体像を学ぶことをおすすめします。ここで高山の成り立ちや人々の暮らし、商業や工芸の発展の歴史などを知ることで、街全体の魅力がより立体的に感じられるでしょう。展示資料や映像、模型を通じて、町年寄や商人たちが築き上げた豊かな文化や、飛騨の匠の技の奥深さを知ることができます。
そして、博物館で基礎的な知識を得てから、実際に「古い町並」を歩くことで、建物や通りに刻まれた歴史の意味や、当時の人々の営みへの想像が一層深まります。伝統建築の細部に込められた工夫や、季節ごとの祭りや行事が育んだ街の活気など、散策中に出会うすべてが生き生きと感じられるはずです。
また、博物館の見学は、その後の旅の楽しみ方を広げる鍵にもなります。例えば、展示で紹介された祭りや工芸品を実際に町中で目にするとき、その背景にある職人の想いや地域の歴史が鮮やかによみがえります。高山の街歩きをより深く味わうための最初の一歩として、ぜひこの博物館の見学を充実させてみてください。

7. 特別展・企画展の魅力
飛騨高山まちの博物館では、定期的に特別展や企画展を開催し、常設展示とは異なる切り口で地域の歴史や文化を深掘りします。
2025年4月12日から6月15日まで実施された春季移動展では、岐阜県博物館所蔵の一位一刀彫や美濃焼、鵜飼などの資料を中心に展示。「伝統」と「傑作」というテーマのもと、代々受け継がれる文化と優れた芸術性が地域を超えてつながる魅力を伝えています
会期中は学芸員によるギャラリートーク(4/26・5/24実施)も開催され、来館者にとって貴重な解説付き鑑賞の機会となりました。

8. イベント・講座で学びを深める
飛騨高山まちの博物館は、講演会・語り部養成講座・古文書講座など、様々な学びの機会を提供しています。
語り部養成講座では、市民や観光客を対象に地域の歴史的解説の担い手を育成。専門家による講義や現場での実技を通じ、地域語りの継承に貢献しています。
また、子ども向けの古文書や刀剣講座、関連するオンライン配信(YouTube)も行われており、主に歴史教育や文化遺産理解に力を注いでいます。
9. 周辺施設との連携と観光導線
博物館は「古い町並」のすぐ近くに位置し、散策前後の起点として観光ルートに組み入れられやすい立地です。また、飛騨高山まちの体験交流館や光アートギャラリーなど、体験型施設とも徒歩圏内に連携しています。
特に、工芸品展の期間には近隣店舗やギャラリーを巡るコースも人気で、街全体を博物館の一部として楽しめる構成です。

10. バリアフリー・アクセスと利便性
施設はスロープや車椅子対応トイレを備え、バリアフリーに配慮されています。また、土日祝を中心に日本語・英語のボランティアガイドが常駐し、字幕付き映像や多言語パンフレットも提供。視覚・聴覚に配慮した展示で誰もが安心して学べます。
11. 公式SNS・情報発信
Instagram(@machihaku1953)や公式Webでは、特別展や休館日のお知らせ、講演会情報などが頻繁に更新されています。
休館情報も事前にアナウンスしているため、出掛ける前はSNSチェックが安心です。

12. まとめ:歩いて、見て、体験する博物館
飛騨高山まちの博物館は、常設展示、特別展、講座やワークショップ、体験プログラム、そして街歩きの出発点として、多様な役割を果たす総合的な施設です。館内には、江戸時代の商人文化や飛騨の匠の技、祭りや暮らしの歴史を伝える資料が豊富に展示されています。美しく整えられた展示空間は、学術的な価値と親しみやすさが見事に調和しており、来館者が自分のペースで歴史や文化に触れることができます。ガラスケースの中に収められた伝統工芸品や、当時の生活を再現する模型は、まるでタイムスリップしたかのような臨場感をもたらし、訪れた人々に深い感動を与えてくれます。
さらに、この博物館は地域の知識を発信するだけでなく、体験プログラムや講座の開催を通じて、学びを実際の体験として提供しています。木工や和紙づくりなどのワークショップに参加すれば、飛騨の伝統工芸を自分の手で体験できる貴重な機会となり、より深く高山文化を理解できます。また、講座や講演会では、専門家の視点から高山の歴史や文化を学ぶことができ、地域の奥深さを再認識できるでしょう。
旅行者にとっては、この博物館で基礎知識を得ることによって、街歩きがより充実したものになります。古い町並みや伝統建築を巡る際、建物や通りに刻まれた歴史の意味をより深く感じることができるでしょう。祭りや日常の暮らしに息づく文化の背景を知ることで、街の風景そのものがまるで一つの大きな物語のように立ち上がります。一方で、地元住民にとっても、博物館は自らのルーツを再発見する場所であり、地域に誇りを持ち、訪問者と共有する喜びを感じられる場でもあります。自分たちが築き上げてきた歴史の担い手として、誇りを胸に語り継ぐきっかけになるのです。
飛騨高山まちの博物館は、こうした多様な視点を受け止める「地域と訪問者をつなぐパス」として、かけがえのない役割を果たしています。訪れる人それぞれが、ここで見つける物語や出会いを大切にしながら、歴史と文化を深く味わうことができる場所です。高山を初めて訪れる方も、何度も訪れている方も、この博物館を通じて新しい気づきや感動を発見できることでしょう。
